
社会保険の負担は、給与所得や事業所得など異なる種類の所得によって変わります。この記事では、現在個人事業で稼いでいる人向けに、パートとして雇用されると社会保険の仕組みがどう変わるのかを解説します。
前提
分かりやすいように、シンプルな前提にします。
- 令和6年度
- 単身世帯
- 扶養家族なし
- フリーランスで事業所得300万円/年
- 大阪府大阪市在住
- 35歳(介護保険料はありません)
ケース1:事業所得 350万円/年 のみ
事業所得のみですので、社会保険は国民健康保険と国民年金に加入します。
国民健康保険料
大阪市ホームページの「年間保険料の試算シート」より試算すると、
年間の国民健康保険料は 481,377円 です。
1ヶ月あたりの保険料は 約40,114円 です。
国民年金保険料
年間の国民年金保険料は 203,760円 です。(前納しない前提)
1ヶ月あたりの保険料は 16,980円 です。
国民健康保険料 + 国民年金保険料
年間保険料の合計額は、685,137円 です。
1ヶ月あたりの保険料合計は、約57,095円 です。
ケース2:事業所得250万円/年+給与収入150万円/年
ケース1との比較のため、所得を350万円/年に合わせて試算します。
(最終的には税金もあわせてトータルで手取り額計算した方が正確なのは承知していますが、ここではパート先をマイクロ法人化するメリットに絞って解説しますので、完全に計算が正確にならないことはどうぞご容赦ください。)
・事業所得250万円/年
・給与収入(パートでの収入)150万円/年(所得税・住民税が引かれる前の金額)
加入する社会保険は、給与所得を得るお勤め先や労働条件によって異なります。給与所得をマイクロ法人的に使うためには、お勤め先で社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する必要があります。
ここでは、週20時間以上のパートも社会保険に加入させる義務のある会社に勤めたことにします。
まずは、お勤め先で社会保険(健康保険・厚生年金)に加入した場合、社会保険料がどうなるか試算してみましょう。
健康保険料
協会けんぽ(大阪府・令和6年度)の場合、
報酬月額は、150万円÷12=125,000円 →標準報酬月額 126,000円
年間の健康保険料(本人負担分)は、78,168円です。
1ヶ月の保険料(本人負担分)は、6,514円です。
参照:令和6年度3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
厚生年金保険料
上記の保険料額表より、
年間の厚生年金保険料(本人負担分)は、138,348円です。
1ヶ月の厚生年金保険料(本人負担分)は、11,529円です。
健康保険料 + 厚生年金保険料
パート先をマイクロ法人化したときの年間保険料の合計額は、216,516円 です。
1ヶ月あたりの保険料合計は、約18,043円 です。
事業所得がいくらでも上記の保険料は変わりません。
ケース1とケース2の比較
ケース1(事業所得のみ年350万円)の場合、国民健康保険料と国民年金保険料の合計額は【685,137円/年】です。
一方で、ケース2(事業所得 年250万円と給与収入 年150万円)の場合、健康保険料と厚生年金保険料の合計額は【216,516円/年】です。
パート先で社会保険に加入することにより、社会保険料の計算方法が変わり、差額の【468,621円(月当たり約39,051円】が軽くなります。
なぜケース2では事業所得に社会保険料がかからないのか?
国民年金法における被保険者 3つの区分とは
国民年金法では、被保険者は第1号から第3号までの3つに区分されます。
第1号被保険者は、自営業者、農業者、学生および無職の方、およびその配偶者(第2号被保険者、第3号被保険者以外)で、国民年金の保険料を自分で直接納める人たちです。
第2号被保険者は、会社員や公務員など職場の厚生年金や共済組合に加入している人たちで、保険料は事業主と折半で給料から天引きされて納付しています。
第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養されている配偶者(専業主婦・主夫)で、原則として年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の方です。
ただし、年収130万円未満であっても、第2号被保険者の加入要件にあてはまる方は第3号ではなく第2号被保険者になります。なお、第3号被保険者の保険料の納付はありません。
第1号被保険者が第2号被保険者に該当するとどうなるか?
事業所得300万円の方は、第1号被保険者に該当しますが、給与所得があり第2号被保険者の資格を得たら、第1号から第2号被保険者に変わります。
なぜ第1号から第2号に変わるのか?
国民年金法 第7条第1項第1号の「次号及び第三号のいずれにも該当しないもの」が第1号被保険者です。(下記引用部分)
つまり、第2号被保険者になれば、第1号被保険者にはならないのです。
これまで第1号被保険者のときは事業所得に対して社会保険料が算定されていましたが、第2号被保険者になると事業所得は社会保険料の算定と無関係になります。
これがマイクロ法人スキームのキモになります。
(被保険者の資格) 第七条 次の各号のいずれかに該当する者は、国民年金の被保険者とする。
引用 国民年金法 e-Gov
一 日本国内に住所を有する二十歳以上六十歳未満の者であつて次号及び第三号のいずれにも該当しないもの(厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)に基づく老齢を支給事由とする年金たる保険給付その他の老齢又は退職を支給事由とする給付であつて政令で定めるもの(以下「厚生年金保険法に基づく老齢給付等」という。)を受けることができる者その他この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者を除く。以下「第一号被保険者」という。)
二 厚生年金保険の被保険者(以下「第二号被保険者」という。)
三 第二号被保険者の配偶者(日本国内に住所を有する者又は外国において留学をする学生その他の日本国内に住所を有しないが渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる者として厚生労働省令で定める者に限る。)であつて主として第二号被保険者の収入により生計を維持するもの(第二号被保険者である者その他この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者を除く。以下「被扶養配偶者」という。)のうち二十歳以上六十歳未満のもの(以下「第三号被保険者」という。)
あとがき
パート雇用では、事業所得に社会保険料がかからない仕組みのため、結果として社会保険料負担が軽くなります。
一方で週20時間の勤務をしなければならない、という労働時間を引き換えにするスキームであることがデメリットかと思います。
もし、時間的な自由も求めるのでしたら、自分が代表となる法人でマイクロ法人スキームを構築するほうがよろしいと思います。
2016年10月までは週30時間以上(他にも要件は有りますがここでは省略します)働かないと社会保険に入ることができませんでしたが、徐々に週20時間以上の対象となる企業が拡大しています。
社会保険の第1号被保険者で、保険料負担が重いなあ、と思っておられる方にとっては、パートでの勤務先をマイクロ法人的に使うこともアリだと思います。
なお、この記事で紹介した制度は、後期高齢者医療制度に加入する75歳までです。
たとえば事業所得の副業収入があるサラリーマンが、65歳で定年退職した後に75歳まで週20時間の社保加入の条件で働いて収入を得つつ社会保険料を軽くする、という方法もあります。
今後のライフプラン設計の参考になればと思います。
