傷病を抱えた従業員から会社に「テレワーク(在宅勤務)をしたい」という相談があったときに、会社が行う対応について社労士目線で解説します。
別記事「妊娠中の従業員からテレワークの希望があったとき」の状況とは異なり、傷病を抱えた従業員から法律に基づき請求できるのは年次有給休暇くらいでしょう。
ほかには、傷病休暇制度、短時間勤務制度、時差出勤制度…そして、このブログのテーマである【テレワーク(在宅勤務)制度】等が知られていますが、これらが使えるかどうかは会社の就業規則によります。
この記事では、傷病を抱えた労働者からテレワーク(在宅勤務)の希望があったときの対応を解説します。
傷病を抱えた労働者からテレワーク(在宅勤務)の希望があったとき
働ける健康状態か、働けない健康状態か
テレワーク(在宅勤務)は働く場所が違うだけで「働くこと」は同じです。傷病を理由にオフィス勤務からテレワーク(在宅勤務)を行う労働者のメリットは通勤の負担軽減といえるでしょう。あるいは、職場での対人関係上の問題を避けるメリットもあるかもしれません。そもそも、テレワーク(在宅勤務)も労働ですので、働ける健康状態であることが前提になります。
「主治医の診断書兼意見書」を会社に提出してもらう
主治医の診断書・意見書などの根拠なく労働者の希望を受け入れると、周囲の他の労働者の不満につながる可能性があります。
会社としては、医師の診断書・意見書を根拠に、「会社は労働者に対する安全配慮義務(労働契約法第5条)のために行います」と他の労働者に説明できるようにしておきたいです。
パターン別に説明します。
- 出社勤務している労働者が在宅勤務を希望する場合
- 休職から復職しようとする労働者が在宅勤務を希望する場合
出社勤務している労働者が在宅勤務を希望する場合
次の順番で主治医の診断書兼意見書(治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式例)を会社に提出してもらいます。
- 【会社→労働者→医師】労働者が主治医に「診断書兼意見書」の作成を依頼します。その際、会社から主治医宛ての「勤務情報を主治医に提供する際の様式例」等の情報提供書面を添えるのが良いと思います。会社からの勤務情報の提供があると医師にとって診断書兼意見書記入の参考になりますので。
- 【医師→労働者】主治医が診断書兼意見書に「就業継続の可否」「望ましい就業上の措置」「措置期間」などを記入します。
- 【労働者→会社】診断書兼意見書を会社(管理者・人事担当者など)に提出して、措置を申し出ます。
- 【会社→労働者】会社が診断書兼意見書の内容に基づいて、必要な措置を講じます。診断書兼意見書に記載の「上記の措置期間」を超えて措置が必要になりそうならば、再度、診断書兼意見書を提出して頂くとよいと思います。
もし、両立支援コーディネーターを活用し、両立支援プランに基づく措置を行う場合は、上記4を次のように読み替えます。
- 【会社→労働者→医師】上記と同じ
- 【医師→労働者】上記と同じ
- 【労働者→会社】上記と同じ
- 【会社→労働者】会社が診断書兼意見書の内容に基づいて、両立支援コーディネーターを活用し、就業規則等に定めている両立支援制度を用いた両立支援プランを作成します。両立支援プランに基づき必要な措置を講じます。診断書兼意見書に記載の「上記の措置期間」を超えて措置が必要になりそうならば、再度、診断書兼意見書を提出して頂くとよいと思います。
休職から復職しようとする労働者が在宅勤務を希望する場合
次の順番で主治医の診断書兼意見書(職場復帰の可否等について主治医の意見を求める際の様式例)を会社に提出してもらいます。
- 【会社→労働者→医師】労働者が主治医に「診断書兼意見書」の作成を依頼します。その際、会社から主治医宛ての「勤務情報を主治医に提供する際の様式例」等の情報提供書面を添えるのが良いと思います。会社からの勤務情報の提供があると医師にとって診断書兼意見書記入の参考になりますので。
- 【医師→労働者】主治医が診断書兼意見書に「復職の可否」「望ましい就業上の措置」「措置期間」などを記入します。
- 【労働者→会社】診断書兼意見書を会社(管理者・人事担当者など)に提出して、措置を申し出ます。
- 【会社→労働者】会社が診断書兼意見書の内容に基づいて、必要な措置を講じます。診断書兼意見書に記載の「上記の措置期間」を超えて措置が必要になりそうならば、再度、診断書兼意見書を提出して頂くとよいと思います。
もし、両立支援コーディネーターを活用し、両立支援プランに基づく措置を行う場合は、手順の4番目に次の2つの要件を追加します。
- 両立支援コーディネーターの活用
- 就業規則に根拠のある両立支援制度を用いた両立支援プランの作成
- 【会社→労働者→医師】上記と同じ
- 【医師→労働者】上記と同じ
- 【労働者→会社】上記と同じ
- 【会社→労働者】会社が診断書兼意見書の内容に基づいて、両立支援コーディネーターを活用し、就業規則等に定めている両立支援制度を用いた両立支援プランを作成します。両立支援プランに基づき必要な措置を講じます。診断書兼意見書に記載の「上記の措置期間」を超えて措置が必要になりそうならば、再度、診断書兼意見書を提出して頂くとよいと思います。
テレワークが可能な職務の場合
主治医の診断書兼意見書を根拠にした就業上の措置として、テレワーク(在宅勤務)を進めて頂ければと思います。
職務内容を軽減すればテレワーク可能な場合
たとえ職務内容が変わってでもテレワーク(在宅勤務)を強く希望されることもあると思います。
別記事「妊娠中の従業員からテレワークの希望があったとき」の状況とは異なり、法令に基づく業務転換の義務はありません。
ただし、最高裁判例(片山組事件:平成10年4月9日)によりますと、
労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。
要約すると、次の3つの要件を満たせば、在宅勤務ができる職務への変更を検討したほうが良いと思います。
- 職務を限定していない雇用契約である
- 労働者本人が在宅勤務ができる職務への変更を申し出ている
- 現在の職務で働くのは難しいけれど、①その人の能力や経験など、②企業の規模など、③労働者の人事異動の難しさなどを考慮して、現実的に職務を変えることができそうである
職務変更に伴う労働条件の変更はありですか?
例えば、外回りの営業から営業内勤に変わりたい、などです。
職務が変わることによって、賃金が変わることもあり得ます。例えば、営業手当は外回りの営業職が対象で、営業内勤には支給されない、という規則になっている場合です。
就業規則や賃金規程に手当の支給基準が明確に定められていれば、支給基準に合わなくなったら外すことは差支えないと考えます。ただし、あとで不利益取扱いと言われないように、丁寧に説明して書面で同意を取っておくほうがよいでしょう。
テレワークができる業務が無い場合
テレワーク(在宅勤務)ができない場合の考え方は2つあります。
- 休職
- 休暇
休職
休職させる、復職希望の場合は引き続き休職とする…などです。
会社の就業規則に休職制度が定められていれば、休職制度を使います。
休職中の賃金は就業規則・賃金規程の定めによります。私はいろんな会社の就業規則・賃金規程を見ていますが、無給の場合が多いです。
休職中の従業員の賃金補償については、健康保険に加入している人には「傷病手当金」があります。
就業規則に定めた休職期間を満了したときの対応はまた別記事で解説します。
年次有給休暇または欠勤
本人から年次有給休暇の申請があれば、年次有給休暇を取得して頂くことで特に差し支え無いと思います。年次有給休暇が無くなれば、就業規則の定めによりますが、欠勤扱いにすることが多いと思います。
なお、休職中の人は年次有給休暇は使えません。なぜなら、年次有給休暇は労働日に対して使いますが、休職は労働日も休日も含めて一定期間就業を免除されているからです。
まとめ
今回、傷病を抱えた従業員からテレワーク(在宅勤務)の希望があった場合、会社としてどのように対応したらよいかを解説しました。
- 基本的には「主治医の診断書兼意見書」に沿って対応する
- テレワークが可能な職務であれば、テレワークを導入する
- 職務内容の変更(軽減)によりテレワークが可能であれば、テレワークを導入する。賃金変更については就業規則・賃金規程の定めによります。
- テレワークできる業務が無い場合は、休職(復職を認めない)または休暇・欠勤になります。賃金は就業規則・賃金規程の定めによります。傷病手当金の活用を検討しましょう。
以上で解説を終わります。何かのお役になれば幸いです!