妊婦さんから会社に「テレワーク(在宅勤務)をしたい」という相談があったときに、会社が行う対応について社労士目線で解説します。
法律では、産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の女性従業員から請求があったときは、産前休業をさせなければなりません。
一方で産前6週間より前であっても、つわり等の体調不良や、医師等の判断による軽減業務や安静などの措置のため、妊娠前よりも欠勤が増える可能性が高くなります。
この記事では、妊娠中の労働者からテレワーク(在宅勤務)の希望があったときの対応を解説します。
妊娠中で在宅勤務を希望する労働者の立場からの記事も参考にしてください。
妊娠中の労働者からテレワークの希望があったとき
「母性健康管理指導事項連絡カード」を会社に提出してもらう
根拠なく妊娠中の労働者の希望を受け入れると、周囲の他の労働者の不満につながる懸念があります。
会社としては「医療上必要だと医師が証明しているので、法律に基づいて行います」と他の労働者に説明できるようにしておきたいです。
次の順番で母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)を会社に提出してもらいます。
- 【会社→労働者→医師】妊娠中の労働者が受診する(母子保健法の保健指導・健康診査)。その際、母健連絡カードに記入する医師(主治医)宛てに、「勤務情報を主治医に提供する際の様式例」等の書面で情報提供されると、医師にとって母健連絡カード記入の参考になると思います。
- 【医師→労働者】医師or助産師が「母体・胎児の健康保持に影響があるので、職場での措置が必要」と判断した場合には、母健連絡カードに指導事項を記入する。
- 【労働者→会社】母健連絡カードを会社(管理者・人事担当者など)に提出して、措置を申し出る。
- 【会社→労働者】会社が母健連絡カードの指導事項に基づいて、必要な措置を講じます。母健連絡カードの3に記載の「上記2の措置が必要な期間」を超えて措置が必要になりそうならば、再度、母健連絡カードを提出して頂くとよいと思います。
テレワークが可能な職務の場合
男女雇用機会均等法における母性健康管理の措置として、テレワーク(在宅勤務)を進めて頂ければと思います。
職務内容を軽減すればテレワーク可能な場合
たとえ職務内容が変わってでもテレワーク(在宅勤務)を強く希望されることもあると思います。
労働基準法では、次のように定められています。
妊娠中の女性が軽易業務への転換を請求した場合には、使用者は他の軽易な業務に転換させなければなりません(労働基準法 第65条第3項)。
ただし、軽易な業務が無い場合には、新たに軽易な業務を創設してまで与える必要はありません(昭和61年3月20日 基発151号・婦発69号)。
例えば、外回りの営業から営業内勤に変わりたい、などです。
職務が変わることによって、賃金が変わることもあり得ます。例えば、営業手当は外回りの営業職が対象で、営業内勤には支給されない、という規則になっている場合です。
就業規則や賃金規程に手当の支給基準が明確に定められていれば、支給基準に合わなくなったら外すことは差支えないと考えます。ただし、あとで不利益取扱いと言われないように、丁寧に説明して書面で同意を取っておくほうがよいでしょう。
テレワークができる業務が無い場合
テレワーク(在宅勤務)ができない場合の考え方は2つあります。
- 休業
- 休暇
休業
母健連絡カードで「休業(自宅療養)」にも〇が付いている場合、在宅勤務ができないのであれば、休業の措置になります。
休業中の賃金は就業規則・賃金規程の定めによります。私はいろんな会社の就業規則・賃金規程を見ていますが、無給の場合が多いです。
休業中の従業員の賃金補償については、健康保険に加入している人には「傷病手当金」があります。
休暇
- 年次有給休暇
- 年次有給休暇以外の休暇
本人から年次有給休暇の申請があれば、年次有給休暇を取得して頂くことで特に差し支え無いと思います。
まとめ
今回、妊娠中の労働者からテレワークの希望があった場合、会社としてどのように対応したらよいかを解説しました。
- 基本的には「母性健康管理指導事項連絡カード」に沿って対応する
- テレワークが可能な職務であれば、テレワークを導入する
- 職務内容の変更(軽減)によりテレワークが可能になれば、テレワークを導入する。賃金変更については就業規則・賃金規程の定めによります。
- テレワークできる業務が無い場合は、休業または休暇になります。賃金は就業規則・賃金規程の定めによります。傷病手当金の活用を検討しましょう。
以上で解説を終わります。何かのお役になれば幸いです!