個人事業主として国民健康保険(国保)に入っていたときは、病気やけがで働けなくなっても、収入を補う給付は法律で決まったものではありませんでした。自分の会社で健康保険に入ると、ここが大きく変わります。
会社の健康保険には、病気やけがで働けないときの「傷病手当金」と、出産で休むときの「出産手当金」があります。役員だけのひとり法人でも、健康保険の被保険者であれば対象になります。
この記事では、協会けんぽに加入している場合を前提に、2つの手当金のしくみと、役員ならではの注意点を整理します。
国保との違い
国保にも、出産育児一時金のように法律で決まっている給付はあります。一方で、傷病手当金は、国民健康保険法では市区町村などが条例で定めた場合に支給できる「任意の給付」とされています。
会社の健康保険では、傷病手当金と出産手当金は法律で決まった給付です。条件を満たせば、役員であっても支給の対象になります。
傷病手当金
受けられる4つの条件
協会けんぽの説明では、次の4つをすべて満たすと傷病手当金が支給されます。
- 業務外の病気やけがの療養のために休んでいること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
- 休んだ期間について、給与(報酬)の支払いがないこと
「仕事に就くことができない」かどうかは、医師などの意見をもとに、その人の仕事の内容も考えて判断されます。
3つ目の条件は「待期」と呼ばれます。休み始めてから連続して3日間休んだあと、4日目以降の休んだ日が支給の対象です。この3日間には、土日や祝日も含まれます。
支給される金額
1日あたりの金額は、次のように計算します。
- 支給開始日以前の12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 3分の2
標準報酬月額をもとに計算するので、役員報酬の額によって手当金の額も変わります。標準報酬月額のしくみは、こちらの記事でまとめています。
会社の健康保険に入ってから12か月に満たない場合は、加入してからの標準報酬月額の平均と、協会けんぽ全体の平均額を比べて、低いほうを使います。会社を設立したばかりの時期は、この点も知っておくとよいでしょう。
支給される期間
傷病手当金は、支給を始めた日から通算して1年6か月まで受けられます。途中で仕事に戻った期間があっても、受けた日数を通算して1年6か月までです。
出産手当金
出産のために仕事を休み、その間に給与の支払いがない場合は、出産手当金が支給されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象になる期間 | 出産の日(予定日より遅れたときは予定日)以前42日(多胎妊娠は98日)から、出産の翌日以後56日目まで |
| 1日あたりの金額 | 傷病手当金と同じ計算方法 |
| 予定日より遅れた場合 | 遅れた期間も支給の対象 |
傷病手当金と出産手当金を同時に受けることはできません。傷病手当金のほうが多い場合は、その差額が傷病手当金として支給されます。
役員ならではの注意点
役員報酬を払い続けていると受けられない
どちらの手当金も、休んでいる期間に給与の支払いがないことが条件です。給与の支払いがあっても、その額が手当金より少なければ、差額が支給されます。
ひとり法人では、病気やけがで休んでいる間も、役員報酬を毎月同じ額で払い続けていることがあります。その場合、手当金は支給されないか、差額だけになります。
役員報酬の額を変えるときは、税金のルールも関係します。役員報酬の決め方の基本は、こちらの記事でまとめています。具体的な判断は、税理士や税務署に確認してください。
個人事業の仕事を続けている場合
二刀流では、会社の仕事は休んでいても、個人事業の仕事は少し続けられる、ということも考えられます。
ここで大切なのは、収入があるかどうかではなく、実際に仕事をしたかどうかです。たとえば、ブログの広告収入のように、自分が作業をしなくても入ってくる収入があるだけなら、仕事をしたことにはなりにくいと考えられます。一方で、療養中にパソコンで個人事業の作業を続けていると、「仕事に就くことができない」という条件を満たしているか、疑問を持たれるおそれがあります。
個人事業の仕事をどこまでしてよいかは、病気やけがの状態や仕事の内容によって変わります。医師の意見と実際の作業の内容がくい違わないようにしたうえで、申請の前に協会けんぽに確認しておきましょう。
仕事中のけがはどうなる?
会社員なら、仕事中のけがは労災保険の対象です。しかし、役員は原則として労働者ではないため、労災保険の対象になりません(中小企業の事業主などが入れる「特別加入」という制度を除きます)。
さらに健康保険法では、役員としての業務が原因の病気やけがには、原則として健康保険の給付を行わないとされています。厚生労働省のQ&Aによると、ここでいう「役員としての業務」は、役員が会社のために行う業務全般を指します。
ただし、被保険者が5人未満の会社の役員には特例があります。その会社の従業員がする業務と同じと認められる業務が原因の場合は、傷病手当金も含めて、健康保険の給付の対象になります。役員の業務が従業員の業務と同じと認められない場合は、対象になりません。
ひとり法人は被保険者が5人未満ですが、従業員がいないため、どの業務が「従業員と同じ業務」と認められるかは、個別の判断になります。仕事中にけがをしたときは、協会けんぽに確認しましょう。
会社をたたむときの「継続給付」
会社をたたんだり役員を辞めたりして健康保険の資格を失ったあとも、次の両方を満たせば、傷病手当金や出産手当金を引き続き受けられます。
- 資格を失う日の前日までに、被保険者の期間が継続して1年以上あること(任意継続被保険者の期間などは除く)
- 資格を失う日の前日に、手当金を受けているか、受けられる状態であること
なお、任意継続被保険者の期間中に始まった病気やけがについては、傷病手当金は支給されません。会社をたたむときの手続きは、このシリーズの後半で取り上げます。
まとめ
- 会社の健康保険に入っていれば、役員でも傷病手当金・出産手当金の対象になる
- 国保の傷病手当金は任意の給付で、会社の健康保険とは位置づけが違う
- 傷病手当金は待期3日間のあと4日目から。支給額は標準報酬月額の平均÷30×3分の2、期間は通算1年6か月
- 出産手当金は、産前42日(多胎98日)から産後56日までの休んだ期間が対象
- 役員報酬を払い続けていると、手当金は支給されないか差額だけになる
- 個人事業は「収入があるか」ではなく「実際に働いたか」がポイント。事前に協会けんぽに確認を
- 役員の業務上のけがは原則として健康保険の対象外。被保険者5人未満の会社では、従業員と同じ業務なら対象になる


