個人事業を続けながら、自分ひとりの会社(ひとり法人)を作る。この「二刀流」では、社会保険と年金の手続きを、会社の事業主としても、被保険者本人としても、自分で行うことになります。
このガイドでは、二刀流の社会保険・年金について、手続きが必要になるタイミングごとに整理しました。くわしい内容は、それぞれの記事で解説しています。気になるところから読んでみてください。
なお、このシリーズは、協会けんぽに加入している役員だけのひとり法人を前提にしています。
二刀流の社会保険・年金の全体像
ひとり法人で役員報酬を受け取ると、会社の健康保険と厚生年金に加入します。個人事業を続けていても、国民健康保険(国保)と国民年金の第1号被保険者からは外れます。
| 個人事業主のみのとき | ひとり法人で社会保険に入ったあと | |
|---|---|---|
| 健康保険 | 国民健康保険 | 会社の健康保険(協会けんぽなど) |
| 年金 | 国民年金(第1号被保険者) | 国民年金+厚生年金(第2号被保険者) |
| 保険料の決まり方 | 国保は前年の所得など、国民年金は定額 | 会社から受け取る報酬(標準報酬月額)で決まる |
| 手続きをする人 | 自分(個人として) | 自分(会社の事業主として) |
1.社会保険に加入するとき
会社として加入する
会社を作ったら、会社として社会保険の新規適用届を出し、役員である自分の資格取得届を出します。
個人の側の切り替え
会社の健康保険に入っても、国保は自動では抜けられません。国保をやめる届出は、世帯主が14日以内に市区町村へ出します。国民年金は、会社が厚生年金の手続きをすれば、第1号から第2号に切り替わります。
個人事業主が法人の社会保険に入ると何が変わる?国保・国民年金からの切り替え
私は、国民年金に1か月だけ入るよりも、切れ目なく厚生年金に入ったほうがよいと考え、会社を設立した月から役員報酬を支払いました。会社の社会保険にいつから入るかは、役員報酬をいつから支払うかとセットで考えるのがおすすめです。
家族を扶養に入れる
条件を満たす家族は、会社の健康保険の被扶養者になれます。配偶者は国民年金の第3号被保険者にもなります。届出は、事業主である自分が、事実発生から5日以内に出します。家族が個人事業をしている場合は、事業の収入(経費を差し引いた額)も収入要件の判定に含まれます。
二刀流の家族の扶養|健康保険の被扶養者と国民年金第3号の条件
使えなくなる制度・変わる制度
厚生年金に入ると、付加年金や国民年金基金など、第1号被保険者だけの制度は使えなくなります。iDeCoは続けられますが、加入区分が第2号に変わり、掛金の上限も変わります。どちらも、自分で届出が必要です。
厚生年金に入ると使えなくなる制度|国民年金基金・付加年金など
2.保険料のしくみを知る
会社の健康保険と厚生年金の保険料は、会社から受け取る報酬を等級に当てはめた「標準報酬月額」で決まります。個人事業の売上や所得は、会社の標準報酬月額には入りません。ひとり法人では、会社負担分も自分の会社が払うので、資金計画では本人負担分と合わせて考えます。
報酬が少ない場合の等級の考え方については、こちらの記事でくわしく書いています。
社保加入サービス問題と起業家保護の視点で標準報酬1等級の重要性を解説
3.毎年の手続き
算定基礎届(毎年7月)
毎年7月1日から10日までに、4月〜6月に支払った報酬をもとに算定基礎届を出します。役員報酬が毎月同じでも、提出は必要です。私は、市販の業務用ソフトは使わず、e-Govから直接電子申請しています。
年金事務所の事業所調査
社会保険に加入している会社には、年金事務所の事業所調査が行われることがあります。算定基礎届や賞与支払届が未提出の事業所は、訪問調査の対象になりやすいとされています。日ごろから、役員報酬を決めた記録、賃金台帳、源泉所得税の納付の記録、届出の控えを整理しておきましょう。
4.報酬が変わったとき
役員報酬を変えたとき
役員報酬を変えて、3か月の平均が2等級以上ずれた場合は、月額変更届を出します。減額したときも必要です。私も1社目の会社で、設立時に高めに決めた役員報酬を下げたあと、3か月待って月額変更届を出しました。
月額変更届が必要になるのはどんなとき?役員報酬を変えたときの社会保険
役員賞与を支払ったとき
年3回以下で支払う役員賞与は、支払日から5日以内に賞与支払届を出します。税金のルール(事前確定届出給与など)は別に確認が必要です。
5.病気・けが・出産のとき
会社の健康保険に入っていれば、役員でも傷病手当金・出産手当金の対象になります。国保では、傷病手当金は法律で決まった給付ではありません。ただし、休んでいる間も役員報酬を払い続けていると、手当金は支給されないか差額だけになります。
6.将来の年金を考える
年金は2階建てに
厚生年金に入ると、将来の年金は老齢基礎年金(1階)に老齢厚生年金(2階)が上乗せされます。老齢厚生年金は、役員報酬(標準報酬月額・標準賞与額)と加入期間で決まります。保険料と将来の年金は、セットで考えましょう。
年金を受け取りながら役員を続けるとき
年金を受け取りながら役員を続けると、役員報酬と年金の合計額によっては、年金の一部または全部が止まることがあります。
定年後のマイクロ法人活用〜在職老齢年金の1ヶ月ルールに要注意
年金記録を確認する
二刀流の年金記録は、国民年金と厚生年金にまたがります。ねんきんネットで、切り替えの月に「すき間」がないか、標準報酬月額が役員報酬と合っているかなどを確認しておきましょう。
7.会社をやめる・たたむとき
会社側の手続き
会社をたたむ(解散する)ときや、休眠させるときは、適用事業所全喪届を事実発生から5日以内に出します。自分自身の資格喪失届もあわせて出します。解散日は、株主総会で解散を決議した日です。登記を申請した日や、登記が終わった日ではありません。
会社をたたむときの社会保険の手続き|全喪届と個人事業側の切り替え
そのあとの健康保険
会社の健康保険を抜けたあとは、任意継続(20日以内)・国保(14日以内)・家族の扶養・新しい会社の健康保険から選びます。新しい会社をすぐ作る場合は、同月得喪に注意が必要です。私は、1社目をたたんだあと任意継続に入り、同じ月に2社目の健康保険に入ったため、その月の保険料が二重にかかりました。
会社を辞めた・たたんだあとの健康保険はどれを選ぶ?任意継続・国保・家族の扶養
【要注意】会社設立で健康保険料が二重払いに!任意継続と同月得喪の落とし穴
二刀流の社会保険・年金 チェックリスト
会社を作ったとき
- 新規適用届・資格取得届を出した
- 国保をやめる届出を出した(14日以内)
- 家族を扶養に入れる場合は、被扶養者の届出を出した(5日以内)
- 国民年金基金・iDeCoなどの届出をした
毎年
- 算定基礎届を出した(7月1日〜10日)
- 届出の控えと賃金台帳などを整理した
- ねんきんネットで記録を確認した
変化があったとき
- 役員報酬を変えた → 月額変更届が必要か確認した
- 役員賞与を支払った → 賞与支払届を出した(5日以内)
- 家族の収入が変わった → 扶養の条件を確認した
会社をたたむとき
- 全喪届・資格喪失届を出した(5日以内)
- 健康保険の行き先を決めて手続きした
- 国民年金の第1号被保険者への切り替えをした
社会保険の加入サービスを検討している方へ
ひとり法人の社会保険をめぐっては、加入を代行するサービスなども見かけるようになりました。利用を考える場合の注意点は、こちらの記事にまとめています。
パートで社会保険に入るという選択肢との比較については、こちらの記事も参考にしてください。
週20時間のパート vs マイクロ法人|個人事業主の社会保険、どちらを選ぶ?
会社を作るところから始める方へ
これからひとり法人を作る方は、設立の手続きから読むと全体の流れがつかみやすくなります。
まとめ
二刀流の社会保険・年金は、会社の事業主として出す届出と、個人として出す届出が混ざります。加入するとき、毎年、変化があったとき、会社をたたむとき。それぞれのタイミングで、どちらの立場で何を出すのかを整理しておくと、手続きの漏れを防げます。
























