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在宅勤務手当が割増賃金の基礎から除外できる場合とは?

このホームページで以前に過去記事「在宅勤務手当と割増賃金の計算方法!3パターン解説」にて取り上げました在宅勤務手当は、割増賃金の算定基礎に含まれることから、月額、日額、賞与での支払いについてシミュレーションを行い解説をしました。

今回は、令和6年4月5日付の厚生労働省通達(基発0405第6号 令和6年4月5日)の「割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱い」により、在宅勤務手当が実費弁償と整理されている場合には、割増賃金の算定基礎から除外できますよ、とお知らせがありました。

実務への影響はどうなるのでしょうか?解説します。

割増賃金の算定基礎となる賃金

割増賃金の基礎となるのは、所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間あたりの賃金額」です。

一方で、労働と直接関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されている事などにより、次の①~⑦は割増賃金の算定基礎から除外することができます。(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)
≫参考「割増賃金の基礎となる賃金とは?(厚生労働省)」

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

在宅勤務手当は在宅勤務にかかる労働者の費用負担を具体的に特定することができないため、月額または日額○円で、一律で渡し切りの金額を支給することが多いかと存じます。

一律で渡し切りの金額を在宅勤務手当として支給する場合には、上記①~⑦に該当しませんので、割増賃金の算定基礎に在宅勤務手当は含まれません。

通達による実費弁償の考え方とは

在宅勤務手当が、事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると整理されるためには、当該在宅勤務手当は、労働者が実際に負担した費用のうち業務のために使用した金額を特定し、当該金額を精算するものであることが外形上明らかである必要があること。

このため、就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示される必要があり、かつ、当該計算方法は在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法である必要があること。

「割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱い」基発0405第6号 令和6年4月5日

なお、渡し切りの在宅勤務手当は実費弁償にならないことは先に述べた通りです。

実費弁償の計算方法

通達では3種類の方法が示されています。

  1. 国税庁「在宅勤務に係る費用負担に関するFAQ(源泉所得税関係)」で示されている計算方法
  2. 国税庁FAQの一部を簡略化した計算方法
  3. 実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法

① 国税庁FAQで示されている計算方法

項目課税する必要あり課税する必要なし
渡し切りの手当(金銭)渡し切りの手当
事務用品や環境整備に係る物品(現物)支給(所有権が労働者に移転)貸与(業務に使用しなくなったときは返却させる)
事務用品や環境整備に係る物品の購入費用(金銭)現物支給(所有権が労働者に移転)上記「貸与」であることが前提
・仮払い後に購入し領収書精算
・購入し領収書精算
電話料金>通話料・在宅勤務に使用した部分を合理的に計算していない
・計算していたとしても、精算していない場合
・業務に使用したと認められない費用に対する支給
通話明細書で確認できるもの
(業務のために頻繁に通話を行う業務の場合、【算式①(後述します)】による算出でも可)
電話料金>基本通話料同上【算式①】による
インターネット接続料同上【算式①】による
電気料金同上【算式②】による
国税庁FAQをもとに筆者作成

【算式①】

従業員が負担した1か月の○○費)×(その従業員の1か月の在宅勤務日数 ÷ 該当月の暦日数)×(法定労働時間8時間 ÷ (24時間-平均睡眠時間8時間))

平均睡眠時間は、「平成28年社会生活基本調査」(総務省統計局)で示されている7時間40分を切り上げたとのことです。

私見ですが、赤字の法定労働時間8時間について、会社の所定労働時間が7時間であれば、8時間を7時間に変えることは、より精微な方法(国税庁FAQ 問6【算式】(注))として、客観的で合理的な説明ができると考えます。

【算式②】

従業員が負担した1か月の電気料金)×業務のために使用した部屋の床面積 ÷ 自宅の床面積×(その従業員の1か月の在宅勤務日数 ÷ 該当月の暦日数)×(法定労働時間8時間 ÷ (24時間-平均睡眠時間8時間))

② 国税庁FAQの一部を簡略化した計算方法

通信費(電話料金、インターネット接続に係る通話料)、電気料金については、簡略化した計算方法もありますよ、ただし条件付きで、という話です。

上記①は毎月の在宅勤務日数と各種費用(使用料金)を計算するのが大変でしょうから、労働者ごとに、「直近の過去複数月(3か月程度)」の実績から1か月当たりの各料金の額を上記の算式①と算式②により計算した額を「在宅勤務手当」とし、一定期間(最大1年程度)は同じ額を支給してOKですよ、ということです。

直近の過去複数月がどの季節を切り取るかによって、在宅勤務手当の額は結構変わりそうですね。常態として在宅勤務手当の額が実費額を上回る場合は、上回っている額を割増賃金の算定に入れなければならないそうです。うーん、超めんどくさい!と思うのは私だけでしょうか?まだ国税庁FAQの計算のほうが簡単に見えてきました。

③ 実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法

「実費≧在宅勤務手当」ならば、在宅勤務手当は実費弁償になると考えられます。

実費額を上回らないように、1日当たりの在宅勤務にかかる単価(実費相当額)を、あらかじめ合理的・客観的に定めて、在宅勤務手当(日額)として支給することであれば、この手当は割増賃金の算定基準に入れなくてOKですよ、という話です。

実費の額を上回らないよう1日当たりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定める方法
通信費・電気料金の場合
  • 1か月あたりの業務に使った通信費や電気料金をそれぞれ国税庁FAQに従い計算する

    当該企業の一定数の労働者を対象に計算する

  • アの計算により得られた額を当該労働者が1か月間に在宅勤務をした日数で除し、1日あたりの単価を計算する

    労働者ごと1日当たりの単価を算出する

  • 一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日当たりの単価のうち、最も額が低いものを、当該企業における在宅勤務手当の1日当たりの単価として定める

    なお、当該単価が高くなるように「一定数の労働者」を恣意的に選んだら、実費弁償として認めませんよ、ということですのでご注意ください。

労働条件の不利益変更になる場合

すでに割増賃金の算定基礎に入れている在宅勤務手当(実費弁償に該当するもの)を、②と③の方法を導入することにより、在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から外すことは、割増賃金額が減少するため、労働条件の不利益変更に当たるとの考え方が通達で示されています。

労働条件の不利益変更を行う際には、社労士などの専門家にご相談のうえでお進め頂くことをおススメします。

なお、過去記事では、在宅勤務手当を支払う場合の記事と、就業規則へ労働者に費用負担をさせる定めについて述べた記事もありますので、ご参考にしてください。

結論どうすればいいのか?

今回通達が出ましたが、めんどくさい実費の把握や計算をしたり、労働条件の不利益変更と言われるリスクを負ってまで、在宅勤務手当を割増賃金の基礎から除外することにチャレンジするメリットは、企業にとっても労働者にとっても、正直ないかな、と考えます。

すでに在宅勤務手当の制度が整っていて問題なければ、この通達で「在宅勤務手当が割増賃金の基礎から外れますよ、ただし条件付きで」と言われたところで、特に何もしなくてよろしいかと存じます。

これから新たにテレワークの導入に取り組む企業様に向けては、私は次の3案(併用もアリ)をご提案すると思います。

  • 労働者への費用負担を就業規則に定める
  • 渡し切りの在宅勤務手当(日額・月額・一時金、基本給が時給の方には時間額も有りです)
  • ①国税庁FAQで示されている計算方法

この記事がなにかの参考になりますと幸いです。

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